次の日、工部局で手続きを済ませると、オリヴィエの手元には、水夢骨董堂の鍵と見事な筆文字で書かれた遺言状が手渡された。工部局を、出るとオリヴィエはそのまま水夢骨董堂へ向かった。受け取った鍵で中に入るとオリヴィエは、店主だった水夢大人が、いつも座っていた椅子に腰掛けて店内を見渡した。
店の奧の壁の棚には古今東西の茶器がズラリと並べられていた。左右の壁には無造作に木箱が積み上げられている。少し値打ちがありそうな壺が、ひとつだけガラスケースの中に納められていた。カウンター代わりに店主がしていた茶箪笥の引き出しを、オリヴィエは開けた。銀色の煙草ケースの下に、オリヴィエの名前の記された白い封筒が見つかった。これは筆文字ではなく羽根ペンで上海語で綴ってあった。
『迷惑でなかったらこの店を貰って欲しい。全部売り払って仏蘭西行きの旅費の足しにして欲しい。でも、もしこのままこの店で商売を続けようと思うなら下の引き出しの中に顧客名簿や仕入先の資料と儂からの紹介状を入れてある。お前の好きにしてくれていい。オリヴィエ、夢はお前と共にある。あきらめるな』
「骨董のことなんかわかんないよ……大人。アンタの葬式代とお墓代が必要だから、ここのガラクタどっかに売りさばくくらいはするけどさ……」
◆NEXT◆