GOLD AND JADE






「あぁ…ん。や…あ、あ、ベル…っ、も…っと…」
「ん? どうした? どうして欲しい?」
 最高に気持ちいいから自分のじゃないみたいな甘ったるいあえぎ声が出てもしょうがないと思う。手にはベルナルドの背中の筋肉と髪が触れる。筋肉が張り詰めててもうちょっとでこいつもイきそうなんだな、なんてほん少しだけ残ってる冷静さで考える。
「ああ…っ、は…んっ」
 俺はいつものように体を少しだけずらしてペニスが当たる角度を変えるとダイレクトに内側から強烈な快感がギュンギュンわき上がる。ベルナルドの腹に擦られている俺のももう限界まで張り詰めて少しずつカウパーが出てて、繋がってる場所から濡れた音がしててそれが恥ずかしくてたまらない。それよりセックスしてる時のベルナルドの目がやばい。欲情に潤んで、それでいて瞳の底に俺を食い荒らすような光がちらちらと見え隠れする。それを見ただけでイっちまいそうになるし仕事中に目が合うと思い出してうっかり欲情しちまう。だから、俺は見たくない。
「ベル…ナルド…っ」
 突かれる度、どうしてもあえぎ声が出る。キスで封じて欲しい。唇でねだるとすぐに深いキスが降りて来た。それが合図のように規則正しい律動が小刻みに、次第に速くなっていつものように二人でほとんど同時に上り詰める。


 デイバンのちょっとばかりエスニックなアジア系移民の多い裏通りで俺は組の車を帰し、一人で中国食料品店に入ってソースを一瓶買った。ここは古いけど清潔でしかも品揃えは完璧なのがいい。店はかくあるべきだ、とベルナルドが言っていた。見るからに辛そうなソースは真っ赤な唐辛子色で、最近食欲が妙に落ちてるベルナルドにいいんじゃないかと思う。
(今日こそ料理完食させてやんぜ!)
 夜は何を作って喰わせようかと考えながら小さいオーデコロンの大きさの瓶を上着のポケットに突っ込んで、少し歩いたデイバンのちょっとばかり上品な店が建ち並ぶ通りまで歩いた。朝の寒さが嘘みたいなぽかぽか天気だ。
(もうじきクリスマスなのにこんな日もあるんだね)

 徹夜明けのベルナルドの為に栄養たっぷりの中華料理をテイクアウトするつもりで、デイバン一のチャイニーズレストランに向かう。ここはCR:5の縄張りで時々幹部会の食事会もやったりする。新しいメニューなんかも研究してて来るのがいつも楽しみなんだけど――。

 ドアの前にすっごい美人がいて思わず口笛を吹きそうになる。麗しの黒髪レディが立っていた。
(うっわ、チャイニーズ・ビューティー! …ここ、ほんとにデイバン?)
 なに、あの、俺にもわかる極上カシミヤに毛皮にシルク。見たことのないすっごい刺繍。それより何より象牙色の磁器みたいな肌。朱色の窓飾りに竹が植わってるそこで、レディは季節外れの綺麗なピオニーが咲いてるみたいだった。
 うっわ。目が合った。切れ長で瞳真っ黒。東洋人、すげぇ神秘的。
 だけど、その目は泣き腫らしたのか真っ赤だった。
 レディがセカンドバッグをとり落とした。ふわりとエキゾティックな香りが漂ってきた。
「どうぞ」
 駆け寄ってバッグを拾い上げて渡すと、目の前で何かが光った。
 あ……!!
 一目で心を奪われた。瞬間で虜になる。
 ヤバい、これ、どうしても欲しい。欲しい。俺のモノにしたい。
 不覚にも俺はそれから目が離せなくなってしまっていた。無礼だと思いながら目はレディのその――形のいい胸に釘付けだ。
「謝謝。對不起」
 形のいい唇から出てきたのは中国語。全然分からねぇ。胸を凝視してるのをとがめられているのだと思い、とっさに視線を外して慌てて取り繕った。
「あ…俺に何か?」
 彼女は俺を目を見開いて俺をじっと見つめた後、今度はなんと泣き出した。真珠の涙がぽろぽろと零れる。
「あ…對不起…」
 白いキッドの手袋が涙で汚れちまうと思って、ベルナルドに持たされているハンカチを差し出した。言葉通じなくても大丈夫だろ、これは。
「謝謝。あ…? …。一模一樣…。う…っ。我的女、兒…う…っ」
 …あーあ、泣きやむまで側にいてやるか。なんか俺の顔見て泣き出したし。それに――。
 俺は何とかしてアレを手に入れたい。だけどどう交渉すればいいんだ? 言葉通じねぇ。交渉しなくても今ここで引きちぎるって手もあるが…。一応自重しとこう。
 目の前でレストランの扉が開いて、こちらも品のいいちょっと年上のチャイニーズ・ダンディが現れた。
「失礼。彼女が何か?」
 キレイな英語だ。しかもたぶん、キングス・イングリッシュ。俺のはイタリアなまりでどうしても巻き舌になっちまう、が。英語だ!
「あの…何かお困りなご事情でも? もしかするとお力になれるかもしれません。宜しければ――」
 俺は巻き舌英語でダンディに話しかける。――さあ、交渉開始だ。


「ベルナルド! おい、聞けって。頼む、貸してくれ、あれを、ほら、例の」
 ベルナルドの執務室に駆け込んだ俺は全力で走ったせいで息が切れててちゃんと話せない。
「落ち着け。サインがたまってる。それから、この書類に関して説明させてくれ。ボスとしていいと判断したらサインしてくれ。ちょっと入りくんだ話になるが、いきなり飛び込んで来た契約だがいい話だよ。この前髪は掴むべきだと思う。……で、昼飯は? 何か買って来るっていうから食わずに待ってたんだ、ハニー、死にそうだ」
 書類を束にして差し出された。だけどそれどころじゃねぇし!
「あの、ほら、電話番の情報ネットワーク!」
「――何に使うんだ?」
 とたんに仕事の声になりやがった。
「あー、えーっと。とにかく貸せよ、人捜しだ。急ぐ」
 目が合いそうになって焦って視線を逸らした。
「どこの仕事だ?」
 ベルナルドの声に不審な響きが混じる。
「俺が個人的に請けた。旅行中の夫婦から。夕方にはNYCに向かうらしい。後腐れはない」
「…了解した。まずこれにサインしたらジャンマルコがいる公衆電話の番号を教えるよ。待ち時間にこっちも頼む。俺も外に出る用事があるからそれまでに終わらせてくれ」
 ベルナルドはにやりと笑ってからずずずいっと書類の山を俺に押しやった。
「あ、その前にコックに何か作らせろ。死にそうだ」

 さすが裏通りのガキども、優秀。有能過ぎる。将来が楽しみ過ぎる。
 ジャンマルコが得意そうに「見つけた!」と、執務室に電話して来たのは依頼からかっきり三十分後だった。俺はサンドイッチを咥えたまま話す。
「……よし! どこだ? すぐ行く。――ああ、あの…、え? 運河の? え? 倉庫の――裏、はあ? 泥まみれで遊んで、た?」
 話がおかしい。
 どう考えてもおかしい。
 彼女――レディとダンディの依頼は女の子の捜索だった――は『ロック・フォート港の魚市場と運河の境目の煉瓦の割れ目で遊んでいた』、らしい。割れ目で!? 
 おかしいだろう。煉瓦の割れ目って魚臭くて虫やらいるよな。
 ともあれ、拐かされてなくて良かった。彼女をレディの泊まってるデイバン・ホテルに連れて行けば、あれは俺のモノになる。あの、一目でどうしょうもなく欲しくなってしまったものが。
「ジャンマルコ、お嬢さんを本部に連れてこい! 丁重に、怖がらせないようにしろよ。とびきりのレディのためだからな」
 コーヒーで無理矢理サンドイッチを飲み込み、納得できないまま受話器を置いた。


 俺の周りをぐるぐる周りながらズボンの裾をくんくんかいでる汚れた犬が一匹。
 本部ロビーに連れて来られたソレはどう見ても犬だった。しかも潮臭くて泥まみれだ。
「お座り」
 言うこと聞かねぇかも、と思いながら命令すると犬は素直にお座りをした。感心するほど聞き分けが良かった。そういや、ガキに知らない場所に連れてこられても吠えもしない。
「え…。俺、女の子を捜せって言ったよな? これ、犬だろ」
「だって、金色で脚白いし間違いねーよ」
「見てくれよ」
 悪ガキが座っている犬の長いしっぽを無造作に掴んで持ち上げたが犬は怒りもせずに立ち上がった。
「ほら…メスだし」
 考えてみれば確かに条件はぴったりだった。しかし、しかし。
 あのチャイニーズ・レディは『毛の色はあなたみたいな金色で巻き毛。白い靴下を穿いた女の子。黒い綸子のビーズ刺繍のチョーカーを着けていて――本当に綺麗な子なの』って、はらはら泣きながら『娘を捜して』って言ったんだぞ?
 犬????
 犬と目が合った。俺の事じっと見つめながらすごい勢いでしっぽを振ってて、ぱたぱた音がしてる。
「あーー、とにかく、洗え。そんなんじゃ連れて行けねーし」
「ここ…湯、出るんだよな? よな?」
「あー、出る出る。いくらでも使っていいからちゃんと洗え。タオルできっちり拭けよ」
「すっげー! Va bene!! Lucky Dog!」
「こいつら浴室に案内してくれ。で、洗い終わったら俺の執務室に。あと、車用意しといてくれ」
 ロビーに詰めてる部下に言い置いて、俺は書類仕事に戻った。

 三人のガキどもは泡だらけになりながらも石けんをたっぷり使って何とか犬を綺麗に洗い上げ、ふかふかのタオルで拭きあげた後、俺の執務室にやって来た。
「すげぇな…」
 キレイになった犬に俺は絶句した。
 泥まみれで汚れていた毛は確かに金色で、一足毎に金色の長い毛並みが波打って優雅なことこの上ない。それに黒繻子のビーズ刺繍のチョーカー――普通は首輪と呼ぶだろうが――をして、脚先は全部白くて、まあ、その、白靴下を穿いているように見えなくもない。
「でもなぁ…」
 ホントに犬?
「ボーナスくれよ、ちゃんと一時間以内に見つけたんだからよ」
「入るぞ、ジャン」
 ベルナルドの執務室と俺の執務室はドア一枚で行き来出来る。律儀なノックの後、そのドアを開けて入って来たのはベルナルドだ。
「お、元気だったか? ジャンマルコ」
「ドン・オルトラーニ! お久しぶりです」
「何だ? 犬? …ああ、これはすごい。ロシアン・ウルフハウンドだ。ロシア貴族の猟犬だよ。まだ小犬だがこれは血統書付きだね、間違いない。どこから連れてきた? 俺が売ってやってもいいぞ、ものすごく高く売れる。ああ、ジャン、まだサインが終わってないんだが――」
「へー、ロシア貴族の犬。そうなんだ。じゃ、俺行くし。ロシアン・リトル・レディ?」
「わん!」
「いい返事だ! 行くぜ!」
 ドアを開けながら金色の小犬に声を掛け、一緒に階段を駆け下りる。
「あ! ガキどもにバナナやってくれ! ジュリオが持ってきたヤツあったろ!」
「おい、どこに行くって!?」
「ドン・オルトラーニ! バナナ!?」
「マジか!? やべーー!」
「食ったことねー! すげー!」
「おい、サインは! ジャン! おい、おまえら、離せ! バナナはちゃんとやるから!」
 背中の声は無視。待ってなんかいられない。玄関を出て車回しでエンジンかかってた車に乗り込む。一刻も早くアレを手に入れたいんだ、俺は!!!


 つまるところ、レディの「娘」は本当に金色の毛をした小犬だったってワケで。
 目の前ではレディが『愛しい娘』との再会に息も絶え絶えに喜んでるしダンディもうれしそうにごま塩の髭なでてるし、デイバン・ホテルのロビーでロシアン・ハウンドの小犬(ベルナルドが言った通りの犬種だった)はレディとダンディの周りをぐるぐる回ったり飛び上がったりしっぽを振りまくったりしてる。

 そして何より、ポケットには一目惚れした『報酬』がきっちり入ってる。
こいつをどうしても自分のモノにしたかった。上着のポケットに手を入れて指先で弄ぶと、冷たいソレがだんだん体温に近い温度になっていくのが分かる。
 どうしょうもなく愛してて、愛しくて愛しくて時々むちゃくちゃに抱きついて髪の毛が鳥の巣になるくらいぐちゃぐちゃにしてやりたい、俺の――。
 ちきしょー! 幸せ過ぎる。
 にやけるのを必死にこらえ、紳士の顔をしてレディとダンディの側に立っていると背中から聞き慣れた声が。
「ああ、カポ。こちらにおいででしたか。ミスター・ヤンと面識があるのですか? それでは話が早い」
 べべべべ、ベ ル ナ ル ドーーー!!?? どうしてここにっ!?
 ヤツの鉄壁の営業声に硬直した。振り向いたが目が合いそうになって逸らす。別に悪い事をしてる訳じゃないけど慌ててポケットから手を出した。
「それではミスター・ヤン。昨日いただいたお話を文書にして参りました」
「おお、それはありがたい。お互い満足いく条件になったと思いますが、どうですか」
「ええ。大変いい条件を提示していただきましたからボスからも文句は出ないはずです」
「では正式に契約しましょう。あなたはしばらくここで待っていてください」
 ダンディがレディに言う。
「……ウォーツータオラ」
 レディは生返事をして、突然現れたベルナルドを凝視している。小犬も飼い主と同じようにベルナルドを見つめている。
「それでは、ボス。――そうですね、契約する間、レディのお相手をお願いしていいですか? そう時間はかかりませんが」
 視線を合わせないようにベルナルドの左肩を必死に見つめていたけれど、口元が妙に優しく笑っているのがよく分かった。

 俺たちはロビーに置き去りにされてしまった。
(えっと…。改めてお礼、言っとく、か…、ベルナルド戻るまで帰れねーし)
 ソファに座って紅茶の湯気見てるだけなのも芸がないので、さっき手に入れた『報酬』をポケットから取り出して彼女に見せ、ゆっくりと「サンク、ユー、ヴェリ、マッチ」、と身振りもつけて言うと、レディはゆっくりと優雅に頷いた。
(あ…そうだ!)
 かろうじて結ばれているネクタイをゆるめて、いつも革紐で下げている金の輪をシャツの下から引っ張り出した。
「偶然だけど、俺もこういうのを持ってるんです」
 俺の手の平には金色の輪と、それと同じ形の翡翠で出来た輪のペンダントが兄弟みたいに並んだ。翡翠の真ん中に開けられた穴には絹糸の房飾りが下げられている。
「あなたから貰った翡翠のペンダントと少し似ていますね。翡翠の方が穴が小さいですが」
 レディは楽しそうに小さく笑って頷くと、犬を撫でていた手を止め俺に向き直ると。真剣なまなざしをして中国語で何やら話し始めた。指を折って何か数字の五と、それに関する説明をしているようだった。俺には分からない言葉だったから黙って聞いているしか無かったけどレディの目はこれはとても大事な事だと語っていた。

 二人がが契約を済ませてロビーに戻って来るとレディはダンディになにやら早口の中国語で話を始めた。それが終わるのを待ってベルナルドが口を開く。
「それでは、ミスター・ヤン。お二人を駅までお送りします。お待たせして申し訳ありませんでした、レディ」

 少しだけ飲み過ぎたワインのせいで足元がふわふわしてすげえ気持ちいい。
 さっきベルナルドからミスター・ヤンとの契約内容聞いて正直たまげた。CR:5はまたもや大きなシノギを手に入れたわけだ。
「な、今日の夜メシどうだった?」
「肉もソースも旨かったよ。腕を上げたなおまえ」
 顔を泡だらけにしたままベルナルドが嬉しそうな声で答えてくれる。
「な、残したけどホントはまずかった?」
「いや、それは――」
 ベルナルドは顔を横に振って、洗面台の鏡に向かってさらに石鹸を泡立てた。
「――あ、思い出した。駅でミスター・ヤンから聞いたが」
「あ、昼間のダンディね。あの条件提示するってどんな金持ち…ちょっとヒネちゃう、俺」
「…結構ワケありな感じだったね。夫婦のふりはしていたが夫婦じゃないようだしね。カマには引っかからなかったが」
 え? 全然わかんなかった。ホント、聡いねおまえ。
「まじでか。NYCに行くって言ってたよな。あいつ、迷子にならなきゃいいけど」
「ああ。あの犬は猟犬だからね、何か動くものを見て本能のまま追いかけたんだろう」
「なるほどね…」
 少ししみじみしてしまって、わりとまじめにあの二人と子犬の幸せを祈ってしまう。通りすがりの人たちだけどね。ベルナルドは俺に背を向けたままたっぷりの湯で顔の石鹸を洗い流した。
「それでね、あのレディには目に見えない不思議なものが見えるらしくてね」
「ほいよ」
 俺は棚から白いタオルをとってやる。鏡の中で目が合いそうになってまた顔を背ける。
「あー、それでか。俺に何か熱心に教えてくれてたけど中国語わかんなくてさ。で、何か聞いた?」
 タオルの感触を楽しむようにゆっくりと顔を拭いてから振り向き、おれの頭を抱き寄せた。
「聞きたい? ジャン?」
「うん、聞かせて」
 とろけるような声と石鹸の匂いとぬくもりにくるみ込まれてうっとり安心する。今日もまた生き延びてアンタとこう出来るって、すごい。ものすごく幸せを感じる瞬間だ。耳にわざとらしく息吹きかけられるのもホントは大好き。幸せ。早くシャツ脱いで素肌で触れあいたい。
「…で? 何だって? ん…っ」
 あ…ベルナルドのがもう固くなってる。それをもっと感じたくて自分のもそうだって伝えたくて腰を擦りつけて背中に手を回す。背骨と背筋の作るくぼみを意味ありげにゆっくり撫でる。
「ああ…。おまえの周りには五匹の守護龍がいるそうだ。年上のが銀、若いのが紫、青、ピンク、緑。おまえ自身は黄金の龍らしいよ。まるでおとぎ話だがね」
 髪をつままれて軽く唇を噛むキスが来た。目を閉じて受ける。
「んんっ…あ、ふっ…。龍……緑色はおまえじゃね? 目の色そうだし」
「じゃピンク――は赤毛のルキーノか? 紫はジュリオで青はイヴァンかも知れないが――銀は?」
「………まさかと思うけど親父…とか? うぇー…ん、あっ」
 角度を変えながら、音が出る小さいキスを何度も与えられてだんだん頭の芯が蕩け始める。待ちきれなくて舌を尖らせディープなのをねだる。だけどまだ応えてくれない。こいつ、ホントに焦らすの好きなんだから。
「ふふ、たぶんそうだね。――で、おまえ。犬探すのと引き替えに翡翠のペンダントねだったんだって?」
「え…? 聞いた、の――? な…キス…くれよ」
 大きく息をしたベルナルドの噛みつくみたいなキス。舌を絡め歯列をなぞられ口内を舐められて、膝の力が抜けそうなのを背中にしがみついて耐える。胸を探られて背中が反る。動悸が速まる。
「ふふ…。ここにあるのがそうかな?」
「ん…っ。あぁ…おい…って…あ…ぁ」
 シャツのボタンを手際よく外し、俺を煽って焦らしながら乳首を摘んで軽く引っ張られる。肩が上がっちまう。吐息も甘ったるい。
 俺の胸には金色の輪と翡翠のペンダントが二つ下げられてて、ベルナルドは俺の腰を掴んだまま、器用にも片手だけで翡翠を摘み上げる。
「ああ、これは…翡翠としては二級品だね。色が薄い。翡翠なら…そうだな…インペリアル・ジェイド――最高級のものならおまえの蜂蜜色にとても映えると思うよ」
「…この色のが欲しかったんだ」
「そう? どうして?」
 覗き込まれてうっかり目があった。うっわ。叫びだしてしまいそうで、奥歯を噛んでこらえた。
 ちきしょー!
 言えるか! おまえの…おまえの目の色と同じだから一目で欲しくてたまらなくなちまったとか、言えるかよ!!
 俺の妙な反応に気がついてさらにベルナルドが俺を責め立てる。
「え? そうなのかい? ――この色の翡翠に何かあるの…?」
「ひ…っん」
 長い指でずるり、とズボンの上から何度か擦り上げられた。
「――ジャン…おまえ、俺と目が合いそうになるといつも逸らすね。どうしてだ?」
 ベルナルドの厚い唇が反らした首に降りてくる。ぞくぞくして涙がじわっとわき上がるのがわかる。
「あ…あ…っ! おい…っ。やめ…っ」
 言えるかよ! 目が合っただけで…軽くだけど――軽くだけど、勃起しちまうようになちまってるとか、言えるかよ!!
「俺は――不安で不安で仕方がないよ、ジャン。おまえに嫌われたら生きていけない」
「そんなの俺も同じだって…」
「聞いてもいいか…? その…今もやってる、そうやって俺の体のあちこちをつまむのは…その――確かめてるんだろう? …最近太っただろ? 嫌わないでくれよ…」
 え!?
「それ、違う!! 逆だって! おまえ痩せすぎだから! だからせっせと肉とか魚とか…! 何のために俺が飯作ってんだと――」
 ベルナルドが息を呑むのが分かった。
「…そう、だったのか…。最近太った気がして飯、残してた…んだが…悪かった、ジャン」
「ばか。おまえ、まだ十五パウンドは増えてもいいぜ。こんな、固い腹してる奴のどこが太ってるんだって? ばかやろう」
 緩く握った拳で腹をゴリゴリするとベルナルドに手を掴まれて下の方に引っ張られた。
「――腹とこっち、どっちが固いと思う?」
「ば、か…」
 うわずる、声、ヤバ。脈打ってるのが分かるくらい固くて、熱い。
「おまえのと俺の、どっちが固いかな…?」
 握ったままの手を今度は俺の方にもって来られた。
「あ…っ。ば、ばかだろ、俺の、が固いに決まってるだ、ろ…? あんたより六つも若い、んだ、ぜ…?」
「はは、そう、か。なら俺は年季の入ったテクでカバーするか…ふ…ジャン…、口、開けて。ジャンなら俺は腹十二分に食いたいし、もちろんおかわりだって欲しい」
 言葉に操られるように目を瞑って口をゆっくり開く。
「ん…っ…おい…っ」
 期待に反して口に突っ込まれたのは指だった。ひどい、頭キた。目、開けて電球の薄黄色い光の中で笑ってる目を睨み付け、そのまま頭を抱えて閉じられた唇にキスをする。一生懸命に背伸びすると腰の硬いのが触れあう。ベルナルドの目をみたせいでもう最大限まで勃起中のをぎゅうぎゅうと押しつけながら自分でシャツを脱いで床に落とした。ベルナルドの口が少しほころびて、その中に尖らせた舌をねじ込む。
「んん…っ。…ベル…な…」
「ふ…っ。いいね…」
「あ…っ?」
 ざらりと乳首を撫でられて唇が離れた。何だ…? ベルナルドの手を見て翡翠の房飾りで撫でられたのが分かった。
「いいね…。絹糸でそんな反応するなんてね…。ああ、こんなものにまで嫉妬しそうだ、俺は…」
「何度ばかって言っても言い足りねぇよ…。な、おまえまだ気づかないの? その翡翠おまえの目と同じ色だって…さ? ばか」
「え…? そう、なの、か…?」
「だからおまえの目を見ないんだ。――仕事中に勃起したくねぇんだよ。おまえは平気なんだろ? 俺の勝ちだな! 謝れ」
 背伸びしたまま耳元で、耳を真っ赤にして言ってやった。ため息が聞こえる。ざまーみろ。己のバカさ加減に恥じ入れ。
 俺の言ってるコトは非論理的で感情的で破綻してて何が俺の勝ちなのかも分からない――つまり目茶苦茶だった。だけど、構わなかった。俺の顔を両手で包み込んでるベルナルドが優しくて暖かいから。
「おまえの――太陽を飲み込んだみたいな色の目を愛してる。何者にも代え難いよ。おまえに見つめられるとそれだけでイきそうだ…ほら…目、開けてくれ」
「……」
 ゆっくりと目を開ける。綺麗なアップルグリーンが俺を見てる。見つめ合って笑いあう。
「どっちが先にイくか試してみようぜ?」
「賛成だ。――じゃあ、今日は最後まで正常位で頼むよ、ハニー、俺の蜂蜜ちゃん」
「負けないぜ、ダーリン」

 見つめ合いながらベッドに転がり込む。

 ベルナルドに組み敷かれて、ベッドがきしむ。ディープなキスで煽られる。身を捩ってベルナルドを抱きしめると金と翡翠の輪がカチリ、と音を立てた。



−−−−−−−−−


新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

時々、ボルゾイ(成犬)を散歩させている人がいるのですが、もう、ホント、貴族の犬っ! って感じです。顔長くて正面から見る胴体がとても平べったいのが珍しいです。毛がつるっつるのふっさふさです。


2013.1.1.

「ジャンがボルゾイ探す話 読んだよー」

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2013.1.1.Up


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