2010年1月の新刊です。小説本。

* BL学園に入学した成瀬のお話 *



2009.12.12 発行
新書版/78P/FC/オンデマンド/400円




*抜粋1*

 レポート用紙を受け取り、枚数を確かめながら彼は言った。
「ああ、これで全部だ。ありがとう、成瀬由紀彦君」
「俺の事…知ってるんですか?」
「もちろん。卯月戦でテニス部の並みいる実力者を蹴散らして優勝した一年だよ? かなり話題になってるの、知らない?」
 柔らかな表情とは裏腹な、やや挑発的にも感じられる物言いに成瀬の眉が寄った。
 いや、そう聞こえてしまったのは自分の心のなかにある感情のせいだ――と思い直し返事をした。それでも、押さえようが無く語尾が尖る。
「あれは新入生に花を持たせる為のイベントでしょう? …他にも一年が優勝した部もあったと思いますが」
 成瀬の言い方を流して、上級生はセルフレームの眼鏡をかけ直しながら続ける。
「――有賀はマジだったけどね…。対戦してて分からなかった?」





*抜粋2*

「ねぇ、七条はどうしてここに入学ったんだい?」
「錬金術と呪術です」
 至極真面目な声で帰ってきた答に成瀬は絶句して七条を見つめた。そんな成瀬に微笑みかけると、今度はこう言った。
「すみません。成瀬君なら笑って流してくれると思って。錬金術というのはもちろん冗談です。とても興味深いですけれど。…そうですね……、敢えて言えば『危機管理』……でしょうか」
「は?」
 七条は小首を傾げて笑っているが、今度は耳慣れない『危機管理』という言葉にどう反応していいか解らない。
「すみません、また混乱させてしまうような言い回しになってしまいましたね。えっと…つまり、こっち方面……です」
 抱えているノートパソコンを人差し指で軽く叩いた
「パソコン関係ってこと? すごいね。ソフトなんか組んだりするのかい?」
「ええ、ソフトも得意です。でも、『危機管理』に期待されているのはもっと他の能力で――。――そうですね…。…成瀬くん、何か知りたい事があれば何でも調べてあげますから、どうぞ遠慮無く」
 つまり、それがハッキングの事だというのは成瀬にも分かった。はっきりとは言わなかったが、七条は余所のパソコンのデータに侵入してデータを盗み見る能力を期待されているのだ。
「――でも一番の理由は、郁と一緒にいたいからです。それでここに来たんです」
「郁…って西園寺? 彼といたくて?」
「ええ。そうです」
 迷い無く答える七条を正直成瀬は理解できず、口の端だけで曖昧に笑った。ファイルと重ねて持っていたノートパソコンの角を撫でながら七条も笑う。
 風がまた木々を揺らす。
 ――風に乗り、梔子の甘い香りがする。








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