*小説部分より抜粋*
「ハニー! ゆかた着よう、ゆ・か・た! 似合うだろうな…。それに、細い腰が強調されてすごくセクシーだろうな…」
成瀬さんに背中を押されて部屋に入る。ベッドの上に、畳んだままのゆかたが置いてある。藍地にシンプルなススキの柄が入った、初めて着る大人っぽいものだ。『寮でゆかたを着ることになった』…って言ったら、母さんが急いで揃えて送ってくれたんだ。
「これかい? あ! 啓太にすごく似合いそうだな…」
そう言って、成瀬さんはばさばさとゆかたを拡げ始める。俺は一人じゃ着られないから、着ないですまそうかな…なんて思っていたんだ、実は。だけど、成瀬さんが着付けてくれることになった。着付けが出来るなんて、ちょっと意外だったけど、去年、西園寺さんに『ゆかたくらい一人で着られなくてどうする』と、徹底的に叩き込まれたらしい。
ベッドの上で、帯を浴衣に合わせて並べて、成瀬さんがうきうきと言った。
「帯もいい感じだね…。さあ、啓太。脱いで!」
――さっき俊介に言われて気になっていることがある。本当かどうか確かめてみなきゃならない。でも――本当なのかな…。本当だったらどうしよう。
「啓太? …どうしたの? 早く脱いで」
「あの……。成瀬さん…。着物の時は…し…下着…着けない…って……本当ですか?」
成瀬さんは俺の方に向き直って笑う。成瀬さんのゆかたは、少しだけ紫がかった地に紺と白で幾何学模様が大胆にあしらわれたもので、大きな柄が長身にとても映えている。