それは誤解だ、と彼は言った(^^)
written by えだまめ様/『山海商事』


「ほう…っ」オリヴィエは今日も、自分の姿を鏡に映してため息を付いた。

「このお肌、このまつげ、この髪…何て美しい…完璧な美…」

「バッカじゃね〜の?」

 ギクリとして振り返ると、いつの間にか、鋼の守護聖・ゼフェルが腕組みして冷たい目でオリヴィエを見ていた。

ふきげん〜「やな子だね、ノックぐらいしたらどうなのさ?」

「したよ、2回も。鏡に見とれてて気づかなかったのはおめぇだろ?」

う…図星かも…。

「で?用は何なのさ?」

「おう。これを届けろってリュミエールに頼まれたんだ」

ゼフェルは乱暴に書類を机の上においた。

「じゃあな。確かに届けたぜ」

「ちょっと待ちなさいよ、ゼフェル」

「何だよ?まだ何かあんのか?」

オリヴィエは右手に枝毛切り用のハサミを構えてゼフェルの腕を取った。

「その髪、切らして(^^)」

「やだよ」

「前から気になってたんだ、その伸ばしたまんま、みたいな髪が…」

「いいんだ、俺はこのままで!」

「ゼッタイ可愛くしたげるからさぁ…」

じゃれじゃれ〜「俺は可愛くなんてなくていいっ」

二人がもみあっている最中に、扉があき、水の守護聖が顔を覗かせた。

「失礼、オリヴィエ。さっきの書類に不備が…」

これは一体…

しかし、リュミエールの言葉は宙に浮いてしまった。

「…あ…あの…すみません、また来ます!」

二人は凍ってしまった。リュミエールに、何だかものすごい誤解をされたようだった。

 

次の朝。オリヴィエは悲鳴を上げた。その声に他の守護聖が駆けつけたとき、鏡の前で震えているオリヴィエがいた。「ど、どうしたんだ?オリヴィエ!」

「ワ、ワタシの…」

「わたしの?」

大悲劇「ワタシの顔に、お肌の大敵・ニキビが!」

「………」

言われてみると、確かにオリヴィエの鼻の頭には、ポツンとひとつ、赤いニキビが出来ている。守護聖達はいっぺんにシラケた。

「…なぁんだ」

「帰ろ、帰ろ」

「ばかばかしい…」

あとには泣き崩れるオリヴィエがいるばかり…。 オリヴィエはそのまま寝込んでしまった。その日の午後。オリヴィエの病床(?)に、ゼフェルが現れた。 手には剣のような形をした、肉厚の葉を一枚、持っている。

「蘆薈(ろかい)の葉?」

「うん。これって辺境の星の植物で、すごく肌あれにいいんだってさ。マルセルに聞いたんだ」

ゼフェルはひょいと机の上に葉を置いた。その拍子に、ゼフェルの腕の、酷い擦り傷がオリヴィエの目に入る。

「どうしたの?この傷」

「あ?ああ」

ゼフェルは、ペロリとその傷をなめた。

「ドジっちまってよ。蘆薈って結構温室の上のほうにあったもんで…」

「…どうして…そんなにしてまで…?」

一大事「だってよ〜、俺には良くわかんねえけど、おまえにとっちゃ一大事なんだろ?その、お肌の大敵とやらが?」

オリヴィエは、目の前の少年を見た。伸ばしっぱなしの髪に、乱暴な言葉遣い、他の守護聖に反抗ばかりしている彼。だが、その心は…。オリヴィエは、泣きたくなった。それは、あまりに綺麗な空を見たとき、あまりに広い海を見たときの、心の揺さぶられかたに似ていた。

「お、おい?どうしたんだよ?オリヴィエ?」


なんだよっこの花はっ 心配そうにのぞき込んできた少年を、オリヴィエは抱きしめた。

「ゼフェル! あんた、いい子だね〜…すっごい、いい子だよ…」

その瞬間、私室のドアがあいた。 水の守護聖・リュミエールだった。

「オリヴィエ、お身体の加減は……?!」

理解はあるつもりです…

リュミエール、ゼフェル、オリヴィエ……三人ともが凍り付いている中、パタンとドアが閉じられた。 ……解きようのない誤解を残して。

* E N D *
1996.8

えだまめ様に、このお話を読ませて頂いた時には、もう、大笑いしてしまいました。その時、えだまめ様の『危ない執務室』(なんと、夢×風)の挿し絵を、うんうんと唸りながら描いておりましたが、その挿し絵を描き終えてから、「マンガ化してもいいですか?」と伺ってみましたら、快諾戴きまして、なんと2年後(遅すぎ…(汗))にやっと本に載せることが出来ました。ところどころに入っている絵は、そのマンガからの抜粋です。

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