散々殴られた末にたたき込まれた石造りの牢屋の中で、私は過去を思い出す事で精一杯意識を失うまいとしていたのだ。天井に近いところに作ってある明かり取りの小窓から四月の暖かな風が微かに入ってくる。ふと雲が途切れ、そこから差し込んできた光が眩しくて私は目を閉じる。そしてまたうとうとと意識を失って行く。

(宵闇亭はどうなっただろう……)

 三日も続けて店を閉めた事などない。常連たちの戸惑う様子が目に浮かんだ。スパイ容疑で連行された男の店になど誰も未練はないだろうか……と思うと、とたんに気力が失せた。



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