|
|
遥か北と遥か東に私の血の源となった母と父の祖国がある。露西亜の灰色をした暗い空や凍てつく風の冷たさ、日本國の四季折々の美しい花々の香りも後に私が書物や人づてに聞いた心象でしかない。だが時折、確かに私自身がそこにいたとはっきりと解る事がある。
消そうとしても決して消せない血に刻まれた記憶が、私自身をかたち造っているのだと、私は思う。母に伝え聞いた過去の話の断片を、大切に繋ぎ合わせる事で自分は何者なのかを確認し、それを忘れぬよう心の中で繰り返し思い出しながら生きて来たのだ。そうやって自分の所在を確かめながら、誰にも押しつぶされぬように生きて来たのだ。
◆NEXT◆